c1215 アイロン娘


南国の小さな島の人達は普段、作業着姿で取り立ててオシャレなど無縁だ。
20歳になったばかりの千恵子は、育ちの良いオシャレな女の子である。
洋服はいつもピシャリとアイロンがけをし、周りからも羨ましがられる存在だ。
いつの間にか千恵子は、アイロン娘と呼ばれるようになった。
隣村に同じ歳の容姿淡麗、千恵子に勝るとも劣らない一人娘の町子がいた。
どういう訳か町子の前を通ると、時々奇声を発するという。
なんで奇妙な声を出すのかと聞くと、町子はゴキブリが大嫌いでゴキブリを見ると、ほうき片手に格闘するという。
案の定、町子はゴキブリ娘と呼ばれるようになってしまった。
この島では本名よりあだ名の方が羽振りを聞かせる。
アイロン娘、そしてゴキブリ娘と二人は呼ばれるようになってしまう。
このあだ名が命運の分かれ道だったのだろうか。
アイロン娘は早々と結婚するが、ゴキブリ娘は嫁の貰い手がなく、とうとう行かず後家になってしまった。
アイロン娘は年頃になり美容師の勉強をする、と東京へ出る。
そして結婚をするが、何と嫁いだ先がクリーニング屋だったそうだ。
アイロンがけは評判もよく、クリーニング屋は大繁盛。
いつの間にか全国にチェーン店を持つ、大きなクリーニング屋さんになったそうだ。
アイロン娘は可愛い女の子を授かるが、血筋なのかその子もまたアイロンが好きでいつもアイロンがけした洋服を着ていたそうだ。
ばーちゃんとなってしまったアイロン娘は、いつも孫に我が家の家宝はアイロンだぞと話しているそうだ

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