c1192 瓶拾い


結婚をさせ、子供でも出来れば、元の明るい子に戻るだろうと、石垣島の知人に、相手を紹介して欲しいと依頼した。
十歳も年上の健一という男と見合いをしたが、抜け殻のようになった明子は、親の言うまま結婚。
健一の仕事は、船の荷役という日雇い労働者だ。
当時は重機がなく、男どもが、蟻の如く沖縄本島行きの船へ荷物を乗せ降ろしをしていたのである。
明子との間には、子供が出来なかった。
それもあったのか、荷役の仕事は、船の出港が午前中の為、朝早く仕事に出かけ正午頃には自宅へ帰るが、酒びたりとなった。
この島にはパチンコなどなく、暇を持て余してどうしても酒に手が出るのである。
酒に酔うと口の暴力、物を投げ、手まで出す始末。
健一の妹がやはり子供も出来ず、出戻って来、姑のいびり。
挙げ句の果ては、健一が外に良枝という女に、子供まで生ませてしまった。
良枝は石垣島生まれで、健一の家族も顔見知り、何のおく面も無く、しゃーしゃーと子供連れで出入りするようになってきた。
明子は、女中以下の扱いだ。
健一は、酒を飲み過ぎたのか、肝臓を患い、六十歳で他界してしまった。
健一の両親は、他所の女に生ませた孫を可愛がり、その女は堂々と出入りする。
姑にはいびられる。
収入がないので、近所の空き瓶を拾い、それで生活するような、乞食同然の生活となった。
リアカーも買えない、天秤棒の前と後ろに、カシガー袋(土嚢袋)で空き瓶を拾い回り、天秤棒担ぎをしている姿を島の人に見られてしまった。
島の親父は、強引に乗り込み島へ連れ戻した。明子五十五歳の時である。
不幸はどこまで追いすがるのか、母は病に倒れ、一年目で他界、父は後を追うようにまた一年後に、他界してしまった。
古い家もまた、台風で吹き飛んでしまったのである。本当の家なし乞食となってしまったのである。
建て直す金などあるはずがない。近所の人が、廃材となったトタンを集め、やっと一人が生活出来る、掘っ立て小屋を建ててくれた。
電気代を払う金もなく、ランプ生活。プロパンガスとて無理、土間で薪拾いをし、煮炊きする生活だ。
あまりにも惨めな乞食同然の身となってしまった。

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